レビー小体型認知症の診断基準
レビー小体は、ドイツのユダヤ人神経学者レビーが1912年にパーキンソン病の脳で発見し、1919年にフランスのトレチイアコフが命名しました。レビー小体病の名称は1980年に小阪氏が提唱した「レビー小体病」や1984年に提唱した「びまん性レビー小体病」を基礎としています。1995年に国際ワークショップが開催されレビー小体型認知症にまとめられた。以降1998年、2003年、2006年と国際ワークショップが開催され、臨床と病理の新診断基準が順次提案されています。
●なぜレビー小体型認知症の臨床診断が重要か?
DLBは早期から最もBPSDを伴いやすい認知症であり、そのために患者やその介護者は苦しんでおり、そのQOLも障害されている。したがって、DLBを早期に診断して対処することによりBPSDを改善させたり、BPSDの発現を抑えることも可能であり、それによって患者およびその介護者のQOLを高めることが可能となる。
特にDLBでは幻視を中心とする幻覚やそれに基づく妄想が起こりやすく、しかもそれらは認知機能の障害がまだ軽いうちに起こることが多く、DLBが誤診されやすい。
DLBでは抗精神病薬に対する過敏性があり、このことを知らないと取り返しのつかない状態に陥ることも臨床の現場でみることが少なくない。この際でも、従来の抗うつ薬を多量に使用されたり、抗精神病薬が安易に使用されたりすると、歩行ができなくなったり、体がカチカチになってしまったりすることがある。
神経内科医に多いが、PDの経過中に幻覚が出現すると、それを単なるレボドーパなどの薬剤性のものと考えて、レボドーパなどが減量され、かえってパーキンソン症状が悪化し、幻覚もよくならないで筆者らのもとを訪ねることが少なくない。
●レビー小体型認知症の原因
DLBの原因は、今のところ不明です。家族性の遺伝子異常が見つかっている例もごく少数ありますが、大部分は散発性(家系や遺伝によらないもの)であり、誰でも起こりうる病気です。
DLBの脳では、中枢神経系(特に大脳皮質、扁桃体、マイネルト基底核、黒質、青斑核、縫線核、迷走神経背側核など)に多数のレビー小体の出現がみられます。このレビー小体が大脳皮質まで広がると、認知症になります。パーキンソン病では、脳幹を中心に現れます。
●レビー小体病の分類
1. 脳幹型(パーキンソン型)
2. 辺縁型
3. 新皮質型(びまん性レビー小体病)
■通常型・・多少ともアルツハイマー病変がある
初老期や老年期に発病することが多く、認知機能の障害から始まり多くの症例ではパーキンソン症状が加わるが、約30%の症例ではパーキンソン症状が最後まで認められない。
■純粋型・・ほとんどアルツハイマー病変がない
65歳以下の若年発症が多く、パーキンソン症状が初発症状で、のちに認知症を伴うのが普通である。
4. 大脳型
(2008.10 Cognition and Dementia 小阪憲司氏より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★レビー小体型認知症(DLB)の改訂版臨床診断基準(2005年)
1. 必須症状(possibleまたはprobableの診断に必須)
ア)正常な社会的または職業的機能に障害をきたす程度の進行性認知機能障害と定義される認知症がある。
イ)著名な、あるいは遷延性の記憶障害は病初期には必ずしも生じないが、進行すると通常認められる。
ウ)注意、実行機能、視空間機能検査の障害が特に目立つことがある
2. 中核症状(probableは2つが、possibleは1つが必要)
ア)注意や覚醒レベルの著名な変化を伴う認知機能の変動
イ)現実的で具体的な内容の繰り返される幻視体験
ウ)突発性のパーキンソニズム
1. 固縮・寡動
2. 振戦
3. 示唆症状(1つ以上の中核症状に加え、以下の症状が1つ以上あればprobable、中核症状がなく以下の症状が1つ以上あればpossibleとする)
ア)REM睡眠行動障害
イ)重度の抗精神病薬への過敏性
ウ)大脳基底核におけるドーパミントランスポーター取り込み低下
(SPECTまたはPET検査)
4. 支持症状
ア)繰り返す転倒と失神
イ)一過性の意識障害
ウ)重度の自律神経症状(起立性低血圧、尿失禁)
エ)幻視以外の幻覚
オ)系統的な妄想
カ)抑うつ状態
キ)中側頭葉領域の(相対的)保持(CTもしくはMRI検査)
ク)後頭葉領域での灌流低下(SPECTまたはPET検査)
ケ)MIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下
コ)側頭葉の一過性鋭波を伴う顕著な徐波化(脳波検査)
5. 可能性の少ないもの
ア)局所性神経徴候や画像で裏付けられる脳卒中の存在
イ)臨床像を証明しうる身体疾患や他の脳病変の証拠の存在
ウ)重度の認知症の段階でパーキンソニズムのみが初めて出現した場合
6. 症状の時間的連続性
DLBの診断は、認知症がパーキンソニズムの前か同時に出現したときになされなければならない。
すでに確立したパーキンソン病が存在する状況で生じた認知症については、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の用語を用いなければならない。レビー小体病のなどの総称的な用語が有用な場合も多い。DLBとPDDの区別を必要とする研究においては、従来の認知症とパーキンソニズムの間の1年ルールが引き続き推奨される。他の時間間隔を用いても、データの蓄積や研究間の比較を妨げるだけであろう。臨床病理的研究や臨床試験などを含む他の研究においては、この2つの臨床型を合わせてレビー小体病やαシヌクレイノパチーなどの統一カテゴリーとして考えることも可能である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※引用資料
●2008.10 Cognition and Dementia
特集 レビー小体型認知症の臨床診断
●神経心理学コレクション
トーク認知症/小阪憲司・田邉敬貴
●りんくる 2008 vol.20
特集/レビー小体型認知症と前頭側型認知症
●若年認知症の臨床 宮永和夫
●なぜレビー小体型認知症の臨床診断が重要か?
DLBは早期から最もBPSDを伴いやすい認知症であり、そのために患者やその介護者は苦しんでおり、そのQOLも障害されている。したがって、DLBを早期に診断して対処することによりBPSDを改善させたり、BPSDの発現を抑えることも可能であり、それによって患者およびその介護者のQOLを高めることが可能となる。
特にDLBでは幻視を中心とする幻覚やそれに基づく妄想が起こりやすく、しかもそれらは認知機能の障害がまだ軽いうちに起こることが多く、DLBが誤診されやすい。
DLBでは抗精神病薬に対する過敏性があり、このことを知らないと取り返しのつかない状態に陥ることも臨床の現場でみることが少なくない。この際でも、従来の抗うつ薬を多量に使用されたり、抗精神病薬が安易に使用されたりすると、歩行ができなくなったり、体がカチカチになってしまったりすることがある。
神経内科医に多いが、PDの経過中に幻覚が出現すると、それを単なるレボドーパなどの薬剤性のものと考えて、レボドーパなどが減量され、かえってパーキンソン症状が悪化し、幻覚もよくならないで筆者らのもとを訪ねることが少なくない。
●レビー小体型認知症の原因
DLBの原因は、今のところ不明です。家族性の遺伝子異常が見つかっている例もごく少数ありますが、大部分は散発性(家系や遺伝によらないもの)であり、誰でも起こりうる病気です。
DLBの脳では、中枢神経系(特に大脳皮質、扁桃体、マイネルト基底核、黒質、青斑核、縫線核、迷走神経背側核など)に多数のレビー小体の出現がみられます。このレビー小体が大脳皮質まで広がると、認知症になります。パーキンソン病では、脳幹を中心に現れます。
●レビー小体病の分類
1. 脳幹型(パーキンソン型)
2. 辺縁型
3. 新皮質型(びまん性レビー小体病)
■通常型・・多少ともアルツハイマー病変がある
初老期や老年期に発病することが多く、認知機能の障害から始まり多くの症例ではパーキンソン症状が加わるが、約30%の症例ではパーキンソン症状が最後まで認められない。
■純粋型・・ほとんどアルツハイマー病変がない
65歳以下の若年発症が多く、パーキンソン症状が初発症状で、のちに認知症を伴うのが普通である。
4. 大脳型
(2008.10 Cognition and Dementia 小阪憲司氏より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★レビー小体型認知症(DLB)の改訂版臨床診断基準(2005年)
1. 必須症状(possibleまたはprobableの診断に必須)
ア)正常な社会的または職業的機能に障害をきたす程度の進行性認知機能障害と定義される認知症がある。
イ)著名な、あるいは遷延性の記憶障害は病初期には必ずしも生じないが、進行すると通常認められる。
ウ)注意、実行機能、視空間機能検査の障害が特に目立つことがある
2. 中核症状(probableは2つが、possibleは1つが必要)
ア)注意や覚醒レベルの著名な変化を伴う認知機能の変動
イ)現実的で具体的な内容の繰り返される幻視体験
ウ)突発性のパーキンソニズム
1. 固縮・寡動
2. 振戦
3. 示唆症状(1つ以上の中核症状に加え、以下の症状が1つ以上あればprobable、中核症状がなく以下の症状が1つ以上あればpossibleとする)
ア)REM睡眠行動障害
イ)重度の抗精神病薬への過敏性
ウ)大脳基底核におけるドーパミントランスポーター取り込み低下
(SPECTまたはPET検査)
4. 支持症状
ア)繰り返す転倒と失神
イ)一過性の意識障害
ウ)重度の自律神経症状(起立性低血圧、尿失禁)
エ)幻視以外の幻覚
オ)系統的な妄想
カ)抑うつ状態
キ)中側頭葉領域の(相対的)保持(CTもしくはMRI検査)
ク)後頭葉領域での灌流低下(SPECTまたはPET検査)
ケ)MIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下
コ)側頭葉の一過性鋭波を伴う顕著な徐波化(脳波検査)
5. 可能性の少ないもの
ア)局所性神経徴候や画像で裏付けられる脳卒中の存在
イ)臨床像を証明しうる身体疾患や他の脳病変の証拠の存在
ウ)重度の認知症の段階でパーキンソニズムのみが初めて出現した場合
6. 症状の時間的連続性
DLBの診断は、認知症がパーキンソニズムの前か同時に出現したときになされなければならない。
すでに確立したパーキンソン病が存在する状況で生じた認知症については、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の用語を用いなければならない。レビー小体病のなどの総称的な用語が有用な場合も多い。DLBとPDDの区別を必要とする研究においては、従来の認知症とパーキンソニズムの間の1年ルールが引き続き推奨される。他の時間間隔を用いても、データの蓄積や研究間の比較を妨げるだけであろう。臨床病理的研究や臨床試験などを含む他の研究においては、この2つの臨床型を合わせてレビー小体病やαシヌクレイノパチーなどの統一カテゴリーとして考えることも可能である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※引用資料
●2008.10 Cognition and Dementia
特集 レビー小体型認知症の臨床診断
●神経心理学コレクション
トーク認知症/小阪憲司・田邉敬貴
●りんくる 2008 vol.20
特集/レビー小体型認知症と前頭側型認知症
●若年認知症の臨床 宮永和夫
- 関連記事
-
- レビー小体型認知症の主な症状 (2019/07/14)
- わかりやすく書かれているレビー小体型認知症の病気と介護 (2019/07/11)
- レビー小体型認知症の臨床診断/系統的な自律神経機能評価 (2012/05/31)
- レビー小体型認知症の診断基準 (2012/05/04)
スポンサーサイト
この記事へのコメント:
介助支援送迎ロクさん : 2012/05/07 (月) 21:47:28
末永都生夫(ときお) : 2012/05/11 (金) 22:48:34
dfc-柏 : 2012/05/22 (火) 14:40:55
コメントありがとうございます!
認知症は早期発見が大事と思い、これが全てではありませんが、診断基準等を掲載しております。
認知症の方が一番困るのは日常生活での様々な障害です。
それを少しでも長く自立した生活を営む上での生活支援が、最も大切だと考えています。
dfc-柏 : 2012/05/22 (火) 14:43:53
コメントありがとうございました!
なるべく正確な情報を掲載したいと思いますが、
何かお気づきの点がありましたら、どんどんコメントください!
これらもよろしくお願い致します。