嫉妬妄想

認知症における嫉妬妄想の基本的理解
嫉妬妄想は、「配偶者が不貞を働いている」と確信する妄想です。嫉妬妄想はさまざまなタイプの認知症にみられますが、その中でもレビー小体型認知症(DLB)で頻度が高く、我々の研究では配偶者のあるDLBの方のおよそ四人に一人に嫉妬妄想を認めました。嫉妬妄想を持つ認知症の方は頻繁に暴力行為に及ぶため、早期に発見し適切な処置をとることが大切です。
嫉妬妄想が生じる最大の要因は「夫婦間の格差」です。図1は嫉妬妄想の発現機序を模式化したものです。認知症を発症した方は日常生活活動(ADL)が自立できなくなり、ADLの一部もしくは多くを配偶者に依存せざるを得なくなります。そのため以前は対等であった夫婦関係に格差が生じ、この格差が認知症の方に配偶者への劣等感を生じさせます。劣等感をかかえた認知症の方は、「配偶者が不貞を働いている」と信じることにより配偶者を自分と同じ立場にまで引きずりおろし、自らの劣等感を解消しようと試みます。このような心理機序が嫉妬妄想の中核にあります。
認知症に加えて患者に重度の身体疾患(麻痺や歩行障害など)を合併していれば、配偶者への依存度がさらに高まり、夫婦間の格差は一層拡大し、配偶者への劣等感はますます強調されます。そこに「配偶者が一人で外出する」「楽しそうに異性と話しているところを目撃する」といった「疑いの種」が加われば、容易に嫉妬妄想に発展します。身体の病気だけではなく、「仕事を辞める」「家事ができなくなる」「自動車運転を止められる」といった家庭や社会での役割を失うことも、認知症の方の劣等感を増強させる要因となります。その他、配偶者に不貞の過去がある場合や、抗パーキンソン病薬の内服、飲酒、夫婦二人きりの生活も嫉妬妄想を引き起こしやすくします。嫉妬妄想に介入する際には、配偶者への劣等感を含めたさまざまな要因がその発現に関わっていることをあらかじめ理解しておく必要があります。
介入は非薬物療法と薬物療法に大別され、原則として非薬物療法を優先させますが、暴力など状況が切迫している時は両者を並行して実施してください。介入する際には医師と医師以外の担当者(精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士、看護師、ケアマネジャーなどのコメディカルスタッフ)を設定し、介護者がいつでも気軽に相談できる体制を作ってください。非薬物的介入は、医師、コメディカルスタッフのどちらが実施しても構いません。
図1
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※平成 25 -26 年度 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業
及び 平成 27 年度 日本医療研究開発機構(AMED)研究費 認知症研究開発事業
「BPSD の予防法と発現機序に基づいた治療法・対応法の開発研究」研究班
熊本大学院生命科研究部神経精神医学分野より引用
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