前頭側頭葉変性症における食行動異常—4

4)立ち去り行動
食事の最中であっても席を立ってしまう。または、立ち去ってしまう場合、食べている前を誰かがと通った、音が聞こえたなど、被影響性の亢進のためと考えられる。席を立っただけの場合なら視覚的に注意を促すと立ち去らずに席に着くことがある。行動を制止したり、言葉や態度で強引に誘導すると理解ができず、拒否や暴力、立ち去り行動を助長する場合もある。
どうしても立ち去り行動があり、行動を変容できない場合は、時間に合わせた食事ではなく、本人の行動に合わせた食事ができるように環境を整えることが必要である。
5)盗食
反社会行動としてとらえられるが、常に歩く、動くという常同行動により、カロリーを多く消費しているため空腹や喉の乾きがあり、その結果、盗食いう行動を起こす場合もある。カロリーだけでなく、間食、飲水を提供していくことが必要な場合もある。
在宅の場合は、短期入院やデイケアを利用して環境を大きく変化させる。そこで適切な行動に変容させ、それをルーティン化していくことを試してみる。病院や施設で、食事の時間に他の人の食事を食べてしまう場合は、1人で食事ができるように個別での環境調整を行う。
6)異食
口唇傾向の亢進により何でも口にしてしまう場合や、食物に関する意味記憶障害の影響など様々な要因が考えられる。生活するということは、いろいろなものに囲まれているということであり、周囲の物をなくしてしまうわけにもいかず、そのすべてに鍵をかけて管理するわけにもいかないため、最もむずかしい対応が求められる。
まずは、飲み込むことなく口腔内に含んだままの例もあるので、口に入れたあと飲み込んでしまう傾向があるのか否かを見極める必要がある。食べものでない物を口にする場合や、たとえば生肉など調理しないと食べられない物を食べたりすることがある。なにが対象になりやすくなっているかを評価し、そのうえで環境調整を行う。口に入れそうな物品を患者の目にはいらないようにしたり、患者本人と行動をともにし、そのつど興味の対象を変えるなどの異食が生じるリスクを軽減する方法が考えられる。

FTLDにおける食行動異常の神経基盤はいまだ明らかではないが、多数例における画像解析を用いた報告では、カロリーの摂取量と脳の萎縮部位戸の関連性ではbvFTDとSDでは異なっている。
※「2016 Vol.27老年精神医学雑誌」引用しています

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前頭側頭葉変性症における食行動異常—3(続く)

食欲の増加は早期に見られやすいとされている。体重は増加する例もあるが、散歩が常同的に行われている場合はぞうかしないことも少なくない。
嗜好の変化としてはチョコレートやジュースなど甘いものを毎日多量に食べる場合もしばしば見られる。また濃い味付けのものを好むといった変化で現れることもある。同じ食べものを自身で毎日買い、家には食べきれないほど貯まってしまうこともある。
食習慣の変化としては、十分に咀嚼せずに嚥下するため食事速度が速くなるといった行動で現れる。決まった小品目の食品や料理に固執したり、食事時間にこだわるといった常同的な食行動も出現しやすい。
食事の最中であっても、その場から立ち去ってしまう行動(立ち去り行動)や盗食も特徴的な症状である。
●治療とケアについて
1 薬物治療
治療は、疾患の行動特性を理解しながら患者個々に対処することが必要である。非薬物療法を主体として補助的に薬物投与を行う。食行動異常に対する薬物療法は確立していないが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、それに類似するトラゾドン塩酸塩がFTDの常道行動や食行動異常に有効であったという報告がある。
2 非薬物療法(ケア)
1)食欲の増加・嗜好の変化
チョコレートやジュースなどの甘いものを多量に食べるといった固執傾向や常同化は、比較的よくみられる病態である。同じものばかり食べている様子がうかがえる場合は、1回に食べる量を減らす、カロリーの少ないものに変更することを考える。一度にすべて変えていくことは困難であるため、1日のうち何回かは量を減らす、カロリーを抑えたものに替えるなど、その変更の回数を少しずつ増やしていくようにして根気よく継続する。
2)食習慣の変化
お椀や皿を持ち、掻き込むようにして食べるため、食事速度が速くなる。どんな味のおかずでもご飯の上に乗せ、一緒にして混ぜて食べるといった行動が見られる場合は、お椀やお皿を小さくして、掻き込む量を減らす、混ぜることがないように1品ずつ提供するなど、提供の仕方を工夫していくことが重要である。また、1品ずつ提供するタイミングも重要で、可能であれば決まった人が提供するような工夫も必要である。
3)常同行動
決まった席に座る場合は、あらかじめその席に他の人が座ることのないようにしておく。
決まった品目(例えば、うなぎ、卵焼き)しか食べないような場合、卵焼きの中に少しずつ具材をまぜていく、いつものうなぎの横に刻んだうなぎを置いてみるなど、一度に変えていくのではなく、少しずつ根気よく繰り返す。
4)立ち去り行動
・・・・・・・・・・・・・・・・・
続く
※「2016 Vol.27老年精神医学雑誌」引用しています

前頭側頭葉変性症における食行動異常ー2(続く)

図1は食行動評価尺度を用いて、bvFTDおよびSDに現れた食行動異常の頻度をADと比較したものである。食行動評価尺度は、FTLDの食行動異常を評価するために開発された。嚥下、食欲、嗜好、食習慣、他の食行動の5つ領域の計37の質問からなる尺度である。図に示すように食行動異常の出現頻度は、ADに比較するとbvFTDとSDにおいて明らかに高く、食欲の変化、嗜好の変化、食習慣の変化はFTLDに特徴的な症状といえる。そのうち食欲の変化はbvFTDで突出して高い。SDにおいても頻度の高い症状である。bvFTDとSDでは症状プロフィールがやや異なり、bvFTDでは過食と暴食が多かったのに対して、SDでは食物への執心が多いという報告がある。

●食行動評価尺度の質問表一例
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関連行動
最近1ヶ月以内の患者さんの様子について1から7まで頻度と重症度の数字それぞれに○をつけてください。
  頻度  重症度
01234 123

1 食べ物で口をあふれるほど一杯にする傾向がありますか?        
2 食べようとしないで、物(たとえば、鉛筆)をかんだり、吸ったりしていることがありますか?
3 食べ物ではない物や、一般的には食べない物を食べたことがありますか? 
4 手の届く範囲にある食べ物をひったくったり、つかむ傾向がありますか? 
5 以前よりタバコを吸う本数が増えたり、再び吸い始めたりしましたか?  
6 自然に嘔吐をしたことがありますか?                 
7 自分の口の中に指を入れて嘔吐をしたことがありますか?
   
上記いずれかに該当する場合は、その症状はいつ頃から始まりましたか?(            )


頻度:
0 ない
1 たまにー週に1回より少ない
2 ときどきー週に1回程度
3 しばしばー週に何度もあったが、毎日ではない
4 非常にしばしばー毎日1回以上あるいは、常に
重症度:
1 軽度ー変化はあるが、容易に修正可能であり、負担ではない
2 中等度ー変化は容易には思いとどまらせることができず、介護者にとっていくらかの困難を伴う変化である。
3 重度ー思いとどまらせることが困難な明らかな変化があり、言い争いやとまどいを生じている。


図1 前頭側頭葉変性症における食行動異常の頻度
 (アルツハイマー病との比較)
bvFTD食異常01
※「精神科臨床リュミエール12 前頭側頭型認知症の臨床(責任編集:池田 学)」
※「2016 Vol.27老年精神医学雑誌」2誌より引用しています


前頭側頭葉変性症における食行動異常ー1(続く)

正月はいつもよりテーブルに様々な料理が並ぶかもしれません。
口唇傾向や嚥下障害がある認知症を介護されている方には注意が必要です!
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これまで広く使われていたNearyらによる診断基準には、行動面の記述が曖昧であることや中核的診断特徴が5つも必要であり、融通性がないなどの欠点があることがしだいに明らかになってきました。さらに、疾患修飾的な治療の有効性が期待される、発症早期の患者に対する感度が低いとの報告も続いた。
これらの知見に基づきFTDC(欧米を中心とした協議会)が、2011年に新たな診断基準bvFTDを発表しました。FTDCの診断基準は従来の診断基準と比して感度が高いこと、得意度も良好であることが報告されています。

一例として
●食行動異常に関して新旧の診断基準の比較
(食行動異常はbvFTDでより重要視されています)
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NearyらによるFTDの診断基準(旧)
II. 支持的診断特徴
 A 行動異常
  4. 過食、口唇傾向と食行動変化
       
FTDCによるbvFTDの診断基準(新)
II. possible bvFTD
 E 口唇傾向と食行動変化(次の症状のうち1つが必須)
  E1 食嗜好の変化
  E2 過食、アルコールやタバコ消費の増加
  E3 口唇探索、または異食症

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●口唇傾向と食行動変化
飲食や食行動の変化はbvFTDでは一般に認められ、食嗜好の変化から非食物の口唇探索行動までの幅がある。食欲の亢進、甘い物や濃い味付けの料理への嗜好の変化、決まった食品や料理に対しての固執などが出現する。一般的には、初期には食欲の亢進や嗜好の変化が出現し、進行とともに食習慣が変化し、しだいに口唇傾向が目立ってくるという順序で変化していくことが多い。
1 食嗜好の変化
 炭水化物欲求傾向(特に甘味)、同じパターンの食事や独特の食物への嗜好などの偏食傾向。
2 過食、アルコールやタバコ消費の増加
 過剰な量の食物を摂取したり、一部の症例では満腹感があるにもかかわらず食べ続けてしまうこともある。喫煙やアルコール摂取を新たに始める、再会する、強迫的な使用をする場合もある。
3 口唇探索、または異食症
 極端な例では、口唇傾向は口唇探索、咀嚼、非食物の探索など、Klüver-Bucy症候群に通じる様相を呈することもある。
※食行動異常は他のFTLDの疾患とも重なる症状で、アルツハイマー病との鑑別には有用です。
(※2013 Vol.24 老年精神医学雑誌より引用しています)



前頭側頭葉変性症・4 基本

前頭側頭型認知症のケアと対応
日本でただ一つ、FTDの人を対象としたグループホームがあります。岡山県笠岡市にある「ラーゴム」です。多くのFTDの人をケアする中で、FTDの人の身に起こるつらさは、
1. 言葉の障害
2. こだわり行動(繰り返し)
3. 身体動作の障害

の3つが特に大きいといいます。以下、ラーゴムにおけるケアの経験を通じて得られた、FTDの人の特徴と対応の仕方についてまとめてみました。
1. 言葉の障害
初期には、意味の伝わらないことを言ったり、限られた特定の言葉しか発することができなかったりする場合もあります。後期に至ると、ほとんどの場合、発語や会話がまったくできなくなっていきます。このように、言葉で表現することに大きな障害が生じるのがFTDの大きな特徴です。
その場合、本人は相手とコミュニケーションができないことに恐怖やいら立ちをもっているとともに、今ある力で精一杯伝えようとしていると思われます。それが大声や奇声などになることもあるため、介護職はそのことを十分に理解し、その人特有のコミュニケーションスタイルを学び対応していく必要があります。
2. こだわり[繰り返し]行動
FTDのこだわり(繰り返し)行動は、自閉症のそれと類似しているともいわれています。人によってさまざまですが、たとえば。「毎日、同じ時間に同じ道を通って、同じものをスーパーで買う」「他のものを一切飲まず、牛乳を毎日2リットル飲む」「座ったら立つという動作を何度も繰り返す」などです。アルツハイマー病の人でも、一見おかしな行動がみられますが、それらは記憶障害や見当識障害などに起因しているものであり、FTDのそれとはまったく異なります。FTDの人のそうした尋常でない固執的な行動は、間違って行うというのではなく、強い衝動をコントロールできないために現れるものといえます。それが往々に、社会や周囲の人から奇異に見られたり、軋轢を生んだりすることになります。
こだわり行動の中には、その人にとって意味のあること(よいこと)もありますが、往々にスポイすること(悪いこと)のほうが多くあります。たとえば、毎日の散歩が健康にいいといえ、炎天下の中、休憩することもなくひたすら歩くのではけっして体にいいといえません。したがって、健康面(甘いものを食べ続けるなど)や共同生活面(周囲に迷惑な奇声・大声など)における影響・程度を考慮しつつ、その人にとって望ましい対応や調整を考えていく必要があります。
多くの場合、どんなに説明や説得を試みてもこだわり行動を止めることは困難です。ただし、本人は深い意味をもっていない場合もあるため、ちょっとしたきっかけで変わる可能性もあります。
3. 身体・動作の障害
FTDにおいては、病気が進行していくと、体が動かない、思うように動作をコントロールできないなどの障害も現れます。具体的には、手足などに力が入りすぎてしまうため、それが歩行や摂食の難しさにつながります。首がうなだれているように見えても、触ってみると、筋の緊張や固縮がみられたりします。そうした障害は他者から見えにくいため、たとえば食事に手をつけない場面では、食欲や意欲の低下とみなされてしまいます。したがって、介護職は、その人の身体・動作のどこに障害があるのかといった特徴を十分に把握し介助を行う必要があります。

※スウェーデン語のラーゴムという言葉は、「適度」「ほどよい加減」といった意味をもっています。その意味で、ラーゴムは、その名のとおり、FTDのそうした障害を適度に緩和し折り合いをつけるためのケアや環境調整を上手に行っているといえます。
なお、FTDは、こだわり行動や「わが道を行く行動」がクローズアップされがちですが、生活においては言葉の障害が大きく、本人の苦痛や困りごとの上位を占めると思われます。そうした言葉やコミュニケーションの障害が他者とのトラブルに至ったり、興奮や暴力につながったりすることも少なくありません。
いずれにしても、FTDのさまざまな行動障害は病気に基づいていることは確かですが、ケアやコミュニケーションの工夫、状況・環境の整備、減薬などによって、その人がもっている力を発揮しながらいきいきと暮らすことが可能になります。病気だから仕方ないというとらえ方は通用しません。
(りんくる2008 vol.20より引用)

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