レビー小体型認知症の臨床診断/系統的な自律神経機能評価

レビー小体型認知症(DLB)では、起立性低血圧や排尿障害など自律神経症状を高率に認め、患者の日常生活に多大な影響を及ぼしている。本稿では、DLBの自律神経機能障害について、心血管系機能の評価法である体位変換試験、頸動脈洞マッサージ検査、Valsalva検査、心拍変動の報告を概観した。DLBではこれらの検査により交感神経系および副交感神経系の両者に障害が認められる。
次に最近われわれが検討している高炭酸換気応答検査について紹介した。DLBでは高炭酸換気応答が著しく障害され、血中二酸化炭素濃度が上昇しても、代償機転としての換気量の増加が生じない。したがって、肺炎や薬剤使用などによるさらなる呼吸機能の低下には十分注意が必要である。また、アルツハイマー型認知症をはじめとする他の変性疾患では高炭酸換気応答が正常反応を示すことから、本検査はDLBの診断ツールとしても有用である。


心血管系の機能評価法を用いた報告

1. 体位変換試験
体位変換検査には能動的に起立する起立試験と tilt ta-ble を用いて受動的に頭部を挙上させる Head-up tilt 試験がある。臥位から立位に体位変換すると、静脈還流と心拍出量の低下が生じ、頸動脈洞や大動脈弓の圧受容器の負荷減弱が生じる。この情報が延髄の反射中枢(孤束核)に到達する。その後、延髄の血管運動中枢、交感神経節などを経て交感神経節後繊維である血管運動神経の活動が促進し、神経末端からノルアドレナリンが放出され末梢血管が収縮する。また孤束核から迷走神経背側核を経由して副交感神経の抑制が生じ、心拍数の増加が生じる。この反射経路の障害によって起立性低血圧が生じる。DLBの患者のおよそ7割に起立性低血圧を認めた。このようにDLBでは高率に起立性低血圧が生じることは一致した見解である。DLBでは起立による心拍数の増加が障害されることを報告している。この心拍数の変化は副交感神経系の機能を反映することから、DLBに交感神経系と副交感神経系の両者の障害が存在することを示唆している。なお、彼らの検討では血管性認知症(vascu-lar dementia ; VD)の心拍数の変化は、DLBより強く障害されていた。起立性低血圧は失神や転倒の原因となり、ADLや予後に多大な影響を及ぼしている。

2. 頸動脈洞マッサージ検査
頸動脈洞過敏性(carotid sinus hypersensitivity ; CSH)も、失神や転倒の原因の1つである。本検査では、5秒間の頸動脈洞マッサージによって3秒以上のRR間隔の延長、あるいは50mmHgなど著明な収縮期血圧の低下を示す場合、CSHと診断される。頸動脈洞の圧迫により圧受容体からの負荷増強の情報が孤束核に達し、その後心臓迷走神経と血管運動神経を介して脈拍の減少と血圧低下が生じる。高齢者ではCSHの頻度が増すが、DLBでは特に高頻度に認められる。DLB例でCSHを認めた例は、頭部MRI上、大脳白質の虚血変化が強かったという。DLBでは、CSHも起立性低血圧も高頻度にみられるため、繰り返し生じる血圧の低下が大脳白質の血管障害をきたし、虚血性変化を誘発したと考えられる。

3. Valsalva検査
Valsalva検査は、胸腔内圧を上昇させ、その後に生じる一連の血圧の変化をモニターする検査で、40mmHgの圧を15秒維持するように息を吹き込む方法がしばしば用いられる。DLBにおけるValsalva検査の結果は、やはり交感神経系、副交感神経系の両者の障害を示している。またAllanらはValsalva検査による心拍数の変化(Valsalva ratio)を計測し、DLBでは対照と比較して心拍数の変化が有意に低下することを報告した。これも副交感神経系の障害を示唆する所見である。

4. 心拍変動
心拍(RR)間隔は呼吸などの影響を受け常にゆらいでおり、これを心拍変動という。心拍変動にはいくつかの指標があり、時間領域指標と周波数領域指標に大別される。時間領域指標には、SDNN、SDANN、rMSSD、pNN50(%)などの指標があり、周波数領域指標にはHF(high frequency, 0.15Hz以上)、LF(low frequency, 0.04〜0.15Hz)、LF/HFなどがある。このうち、HFは心臓迷走神経による副交感神経系の活動の、LFは交感神経系の心臓・血管神経および心臓迷走神経両者の活動の、LF/HFは交感神経系と副交感神経系のバランス、あるいは交感神経活動の指標と考えられている。心拍変動の低下は、心不全、冠動脈疾患による死亡、突然死などのリスクを高める可能性が報告されている。自験例で24時間ホルター心電図の結果から心拍変動を測定したところ、やはりDLBのHF値とLF値は、ADや対照群と比較して著明に低く、DLBでは、心臓迷走神経および交感神経節後繊維の両者に障害が示唆された。DLBを対象とした心血管系に関する一連の自律神経検査では、いずれも交感神経系、副交感神経系の両者に著明な障害が描出される。

5. 呼吸調節機能
血中酸素濃度の低下は頸動脈体の化学受容器で感知し、求心性の情報は延髄呼吸中枢に達する。その結果、換気量の増加が生じる。一方、血中二酸化炭素濃度の変化は、主に延髄の中枢化学受容野が感知すると考えられている。

レビー小体型認知症における高炭酸換気応答

DLB全例で高炭酸換気応答は異常低反応を示した。またAD患者や健常者の高炭酸換気応答を検討したところ、全例が正常反応を示した(Mizu-kamiら投稿中)。
高炭酸換気応答検査の結果は、DLBでは血液中の二酸化炭素の増加に対して、正常では生じるはずの換気量の増加が出現しないことを示唆している。したがってDLB患者に対しては、呼吸器系感染症の合併や呼吸抑制をきたす薬剤の投与など、さらなる呼吸機能の悪化に十分注意する必要がある。さらにDLBでは心血管系の自律神経機能も著明に障害されているため、身体合併症に対する予備能力がきわめて低下していると考えられる。なお、AD以外にも、文献的にはPDや多系統萎縮症も高炭酸換気応答が正常と報告されているので、高炭酸換気応答検査は、DLBをAD、PD、多系統伊縮症から鑑別する診断ツールとしても有用と考えられる。

DLBに対する自律神経機能評価を概観した。自律神経障害は、ADLや予後に直接影響するため、その評価は臨床的にきわめて重要である。DLBではこれまで報告されている心血管系の障害のみならず、呼吸調節系の障害も存在することから、身体的予備能力の低下をきたしており、合併症の併発には十分な注意が必要である。DBLにとって自律神経障害は、認知機能障害、精神行動症状、錐体外路症状と並ぶ重要な症状であり、自律神経障害に配慮した治療薬の選択やケアが大切である。
  ※Cognition and Dementia Vol.7 No.4 2008.10 より引用
    ■特集 レビー小体型認知症の臨床診断
スポンサーサイト

レビー小体型認知症の診断基準

レビー小体は、ドイツのユダヤ人神経学者レビーが1912年にパーキンソン病の脳で発見し、1919年にフランスのトレチイアコフが命名しました。レビー小体病の名称は1980年に小阪氏が提唱した「レビー小体病」や1984年に提唱した「びまん性レビー小体病」を基礎としています。1995年に国際ワークショップが開催されレビー小体型認知症にまとめられた。以降1998年、2003年、2006年と国際ワークショップが開催され、臨床と病理の新診断基準が順次提案されています。

●なぜレビー小体型認知症の臨床診断が重要か?
DLBは早期から最もBPSDを伴いやすい認知症であり、そのために患者やその介護者は苦しんでおり、そのQOLも障害されている。したがって、DLBを早期に診断して対処することによりBPSDを改善させたり、BPSDの発現を抑えることも可能であり、それによって患者およびその介護者のQOLを高めることが可能となる。
特にDLBでは幻視を中心とする幻覚やそれに基づく妄想が起こりやすく、しかもそれらは認知機能の障害がまだ軽いうちに起こることが多く、DLBが誤診されやすい。
DLBでは抗精神病薬に対する過敏性があり、このことを知らないと取り返しのつかない状態に陥ることも臨床の現場でみることが少なくない。この際でも、従来の抗うつ薬を多量に使用されたり、抗精神病薬が安易に使用されたりすると、歩行ができなくなったり、体がカチカチになってしまったりすることがある。
神経内科医に多いが、PDの経過中に幻覚が出現すると、それを単なるレボドーパなどの薬剤性のものと考えて、レボドーパなどが減量され、かえってパーキンソン症状が悪化し、幻覚もよくならないで筆者らのもとを訪ねることが少なくない。


●レビー小体型認知症の原因
DLBの原因は、今のところ不明です。家族性の遺伝子異常が見つかっている例もごく少数ありますが、大部分は散発性(家系や遺伝によらないもの)であり、誰でも起こりうる病気です。
DLBの脳では、中枢神経系(特に大脳皮質、扁桃体、マイネルト基底核、黒質、青斑核、縫線核、迷走神経背側核など)に多数のレビー小体の出現がみられます。このレビー小体が大脳皮質まで広がると、認知症になります。パーキンソン病では、脳幹を中心に現れます。

●レビー小体病の分類
1. 脳幹型(パーキンソン型)
2. 辺縁型
3. 新皮質型(びまん性レビー小体病)

■通常型・・多少ともアルツハイマー病変がある
初老期や老年期に発病することが多く、認知機能の障害から始まり多くの症例ではパーキンソン症状が加わるが、約30%の症例ではパーキンソン症状が最後まで認められない。
■純粋型・・ほとんどアルツハイマー病変がない
65歳以下の若年発症が多く、パーキンソン症状が初発症状で、のちに認知症を伴うのが普通である。
4. 大脳型
(2008.10 Cognition and Dementia 小阪憲司氏より)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★レビー小体型認知症(DLB)の改訂版臨床診断基準(2005年)
1. 必須症状(possibleまたはprobableの診断に必須)
ア)正常な社会的または職業的機能に障害をきたす程度の進行性認知機能障害と定義される認知症がある。
イ)著名な、あるいは遷延性の記憶障害は病初期には必ずしも生じないが、進行すると通常認められる。
ウ)注意、実行機能、視空間機能検査の障害が特に目立つことがある

2. 中核症状(probableは2つが、possibleは1つが必要)
ア)注意や覚醒レベルの著名な変化を伴う認知機能の変動
イ)現実的で具体的な内容の繰り返される幻視体験
ウ)突発性のパーキンソニズム
 1. 固縮・寡動
 2. 振戦

3. 示唆症状(1つ以上の中核症状に加え、以下の症状が1つ以上あればprobable、中核症状がなく以下の症状が1つ以上あればpossibleとする)
ア)REM睡眠行動障害
イ)重度の抗精神病薬への過敏性
ウ)大脳基底核におけるドーパミントランスポーター取り込み低下
(SPECTまたはPET検査)

4. 支持症状
ア)繰り返す転倒と失神
イ)一過性の意識障害
ウ)重度の自律神経症状(起立性低血圧、尿失禁)
エ)幻視以外の幻覚
オ)系統的な妄想
カ)抑うつ状態
キ)中側頭葉領域の(相対的)保持(CTもしくはMRI検査)
ク)後頭葉領域での灌流低下(SPECTまたはPET検査)
ケ)MIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下
コ)側頭葉の一過性鋭波を伴う顕著な徐波化(脳波検査)

5. 可能性の少ないもの
ア)局所性神経徴候や画像で裏付けられる脳卒中の存在
イ)臨床像を証明しうる身体疾患や他の脳病変の証拠の存在
ウ)重度の認知症の段階でパーキンソニズムのみが初めて出現した場合

6. 症状の時間的連続性
DLBの診断は、認知症がパーキンソニズムの前か同時に出現したときになされなければならない。
すでに確立したパーキンソン病が存在する状況で生じた認知症については、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の用語を用いなければならない。レビー小体病のなどの総称的な用語が有用な場合も多い。DLBとPDDの区別を必要とする研究においては、従来の認知症とパーキンソニズムの間の1年ルールが引き続き推奨される。他の時間間隔を用いても、データの蓄積や研究間の比較を妨げるだけであろう。臨床病理的研究や臨床試験などを含む他の研究においては、この2つの臨床型を合わせてレビー小体病やαシヌクレイノパチーなどの統一カテゴリーとして考えることも可能である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※引用資料
●2008.10 Cognition and Dementia
特集 レビー小体型認知症の臨床診断
●神経心理学コレクション
トーク認知症/小阪憲司・田邉敬貴
●りんくる 2008 vol.20
特集/レビー小体型認知症と前頭側型認知症
●若年認知症の臨床 宮永和夫