fc2ブログ

新しい認知症、大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症:LATE

ミシェル・ロバーツ、BBCニュースオンライン、保健編集長
これまでにアルツハイマー型認知症と診断されていた人の中には、実は新たに発見された種類の認知症だった人が多く含まれていると、国際研究チームが発表した。
ある専門家は、近年で最も重要な認知症に絡む発見だと話している。研究は医学誌「ブレイン」に発表された。
LATE(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy、大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症)と呼ばれるこの症状は、アルツハイマー型認知症と似ているが、異なる病気だという。
新たな認知症が特定されたことで、これまで認知症の治療方法が確立してこなかった理由が明らかになるかもしれない。
認知症とは?
認知症は単一の病気ではなく、記憶や思考が損なわれるなどの症状をまとめた呼び方だ。
さまざまな種類の認知症があるが、中でもアルツハイマー型認知症が最も患者の数が多いとされ、広く研究されている。
しかし今回の研究では、アルツハイマー型と診断された患者の最大で3分の1が、実はLATEである可能性があるとしている。また、アルツハイマー型とLATEは併発することもあるという。
研究は、認知症患者の死後解剖の結果を基にしている。それによると、LATEは80歳以上が罹患するもので、この年齢グループでは5人に1人の割合で症状が確認された。
調査チームはこのことから、公衆衛生におけるLATEの影響は大きいと指摘した。
アルツハイマー型と違い、LATEはより緩やかに記憶が失われていくとみられている。
※WEDGE Infinity「BBC News(日本語版)」より引用
スポンサーサイト



アルツハイマー病を学んでみよう…1

アルツハイマー病によって壊される、記憶の司令塔ー海馬ー
大脳の最も外側には2〜4ミリメートルの層があり、ここは約140億個のニューロンから構成されています。この部位は「大脳皮質」とよばれ、思考や判断といった知的活動を担う場となっています。その内側には、本能や感情などを司る「大脳辺縁系」があります。
目(視覚)や鼻(嗅覚)、皮膚(触覚)といった各感覚器官から送られた信号はまず、大脳辺縁系にある「嗅内皮質」に集められ、その後、となりの「海馬」に送られます。嗅内皮質には、「嗅」という字がついていますが、嗅覚に限らず、あらゆる感覚情報がここに集められます。海馬ではこれらの信号を整理・統合し、大脳皮質にある「視覚野」や「嗅覚野」といった、それぞれ視覚や嗅覚の情報を処理する場所へ送り、記憶として格納します。何かを思い出そうとする際は、この逆の経路をたどることで記憶がよみがえります。
“記憶の司令塔”が真っ先に壊される
このように、嗅内皮質及び海馬は、記憶や学習に必須の場所なのですが、アルツハイマー病で最初にニューロンの死滅がおきるのが、まさにこの嗅内皮質、そして海馬なのです。そのため、行動や思考力などに異常があらわれる前に、まず物忘れが始まり、新しいことを覚えられない、という記憶障害がおきるのです。
アルツハイマー病がさらに進行すると、大脳皮質にまで病変が広がります。大脳皮質は「前頭葉」や「側頭葉」などに分けられ、それぞれの部位ごとに役割が異なります。
◆記憶を司る海馬
記憶の司令塔である「海馬」を中心として、記憶の入出力のしくみをえがきました。
視覚や聴覚など、感覚にかかわるほとんどの信号は、嗅内皮質を通って海馬へと入力されます。この情報は大脳皮質へと送られ、保存、つまり記憶されます。
■大脳皮質(原皮質、古皮質、新皮質からなる)
大脳皮質は機能が局在しており、ブロードマン領域は、運動と感覚それぞれに、手や指、足、顔など体の各部に対応して49野ある。機能で大別すると、感覚野、運動野、連合野に分けられる。
●後頭葉
大脳皮質のうち、後方に位置する部位。眼からの信号を制御する「視覚野」の大部分は後頭葉に位置しており、視覚情報が格納されています。
この部分に損傷を受けると、目に見えるものを認識したり意識したりすることができなくなり、現実に存在しない人や物が見えるなどの幻覚が起きます。
●頭頂葉
大脳皮質のうち、上方に位置する部位。頭頂葉は感覚情報の統合を行っています。また、頭頂葉の一部は視覚の処理に関わっており、特に物体の位置や方向などをとらえるために重要な部位です。
空間の中で、自分がどちらに向いているのか、深さや距離がわからなくなったり、動きを認識する能力にも障害が生じます。自分の体の認知が障害され、各部位相互の関係がわからなくなるために、服を着脱することができなくなります。
●前頭葉
大脳皮質のうち、前方に位置する部位。前頭葉には、体の動きを司る「運動野」が存在し、歩行などの運動をコントロールしています。また、理性的思考や感情のコントロールを行っています。
●側頭葉
大脳皮質のうち、側面に位置する部位。側頭葉は、主に聴覚の処理に関わっています。また、音声や文字の意味を理解する働きを担っていると考えられています。
■大脳辺縁系
構成要素は、系統発生的に古くからある原皮質です。本能や情動など、動物にも共通する機能を果たしています。
◆嗅内皮質
海馬の前方に位置します。五感から入力される信号のほとんどは、嗅内皮質を介して伝わります。
◆海馬
海馬は、大脳の表面に位置する「大脳皮質」が内側に折り込まれた端に位置する組織で、記憶に重要な役割を果たします
海馬が損傷を受けると、新たに紹介された人の名前を繰り返し尋ねたり、ちょっと前に見たり、聞いたり、読んだことさえ記憶に留めることができなくなります。
◆脳弓
脳弓は、大脳辺縁系の複数の領域をつなぎ、海馬からの信号を受け渡すという役割をもちます。
◆扁桃核
恐怖や攻撃性といった感情を生み出すのに重要な役割を果たしています。大脳皮質から送られてくる感覚情報と海馬からの記憶情報を統合して、情動として出力していると考えられています。
※「Newton 2017.3 アルツハイマー病研究最前線」より抜粋引用


アルツハイマー病研究最前線

アルツハイマー病の根治に向け、治験薬の開発が進む。
数多くの抗アミロイドβ抗体が開発されるものの、臨床試験では効果が確認されない、というケースが続いています。抗体治療が認知機能の回復に効果をあらわさない原因の一つは、抗体がタンパク質であるためではないか、と考えられています。脳の血管には「血液脳関門」とよばれる特殊な”壁”があり、血液中から脳に必須な物質だけが取り込まれ、他の物質は排除されるというしくみをもっています。そして、タンパク質である抗体は、血液脳関門をほとんど通過できず、そのため薬効を示さないのではないか、というのです。
そこで、抗体治療とはことなるアプローチによる創薬研究も行われています。たとえば、脳内のアミロイドβ濃度を下げるため、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)からアミロイドβを切り出すはたらきをもつ「βセクレターゼ」を阻害するという方法が考えられています。
◾️さまざまなタンパク質をターゲットとした創薬研究
アルツハイマー病の根本治療に向けて、「アミロイドβの蓄積を防ぐ」「タウの凝集を防ぐ」「炎症反応を抑える」など、さまざまな方向からアルツハイマー病によるニューロン死を防ごうと試みられています。
●ミクログリア機能調整薬
ミクログリアの細胞膜に存在する「TREM2」というタンパク質を刺激すると、アミロイドβを”食べる”能力が活性化される一方で、炎症をひきおこすサイトカインの合成は抑えられることが判明しました。
●βセクレターゼ阻害薬
APPを切断し、アミロイドβをつくりだす酵素であるβセクレターゼのはたらきを阻害することで、アミロイドβがつくられる量を減らすことができると考えられています。
●リン酸化酵素阻害薬
タウの凝集は、タウが「GSK-3β」とよばれるリン酸化酵素などによって過剰にリン酸化されることでひきおこされる可能性が示されています。そのため、このリン酸化酵素のはたらきをおさえることで、タウの凝集を防ぐことができるのではないかと考えられています。
●タウ凝集阻害薬
微小管から離れたタウは凝集し、ニューロン内に蓄積していきます。この凝集を防ぐことで、ニューロンの細胞死を防げるのではないかと考えられています。
●ネプリライシン刺激薬
ネプリライシンはシナプスの細胞膜に存在するタンパク質で、アミロイドβを分解するはたらきをもちます。そのため、このタンパク質を刺激することで、アミロイドβの分解を促進することができると考えられています。
●ソマトスタチン受容体刺激薬
ソマトスタチンは、主に視床下部から分泌されるホルモンです。ソマトスタチンが受容体に結合することで、ネプリライシンのはたらきが強まることから、この受容体を刺激することで、脳内のアミロイドβ濃度を低下させられると考えられています。
※「Newton 2017.3 アルツハイマー病研究最前線」より抜粋引用









記憶のメカニズム・・・2

スパインの変化と記憶の性質
一夜づけで覚えた数学の公式はすぐに忘れてしまうが、小学生のころに覚えた九九はなかなか忘れない。この記憶の不思議な性質は、どうやって生じるのだろうか?
「脳も結局は細胞からできている。細胞としての性質を明らかにすれば、記憶の不思議な性質も説明できるのではないか」。東京大学の河西春郎教授はそのように考え、「スパイン」という樹状突起の出っぱりに注目して、研究を行っている。スパインとは、神経細胞のつなぎ目(シナプス)で、ほかの神経細胞からの信号(神経伝達物質)を受け取る構造のことである。
これまでに、同じことをくりかえし学習すると、同じスパインに何度も信号が送られ、スパインが大きくなることがわかっている。スパインが大きくなると、信号を効率的に受け取れるようになるという。この現象は、記憶が脳にたくわえられるしくみの一部だと考えられている。
スパインの大きさは学習による刺激でのみ変化すると思われていた。ところが、学習による刺激がなくても大きさが“自然に”変動していることが、河西教授らの研究で明らかになってきた。ラットの海馬の神経細胞を培養し、数日にわたって観察したところ、大きくなったり、小さくなったり、スパインの大きさは日々変動していたのだ。
河西教授は、このスパインの変動から、記憶や学習の不思議な性質の一部を説明できると考えている。「新しい記憶。つまり小さなスパインは、変動によってすぐに消滅してしまう可能性が高いです。知識を身につけるためには、くりかえし学習してスパインを大きくする必要があります。また、古い記憶は、すでにスパインがかなり大きくなっており、多少の変動くらいではなかなか消えないので、忘れにくいのだと考えられます」(河西教授)。
脳のさまざまな機能は、細胞の動きや形を理解することで、よりくわしく説明できるようになるかもしれない。
一つのスパインに、ある一つの記憶がおさめられているわけではない。記憶はあくまでも、神経細胞がつくる“ネットワーク”に保存されている。つながり方や信号の伝わり方こそが記憶なのである。
※Newton 2010.3より引用しています
※河西(Kasai)研究室.(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 構造生理学部門)

http://www.bm2.m.u-tokyo.ac.jp/typical/commentary2.html
(上記のhpで最新の河西教授の研究もわかります)

記憶のメカニズム・・・1

「記憶」するとはどういうことだろうか。
粘土に手を押しつけると手形が残るように、脳の中にも何らかの“記憶の跡”が残っているはずだと考えられている。現在、その跡とは、神経細胞のネットワーク(神経回路)の変化だといわれている。つなぎ目(シナプス)が大きくなって情報伝達の効率が上がったり、つながり方がかわったりするというのだ。さらに重要なのは、その変化が維持されるということらしい。ネットワークの変化が維持されていれば、あとで同じパターンの情報伝達を行うことができる。つまり、記憶を「思い出す」ことができる。
記憶は、その内容や覚えている時間の長さによって、いくつかの種類に分けることができる。そして、記憶の種類によって、記憶する時に使われる脳の場所や、記憶が保存される場所がちがうと考えられている。
記憶と関係が深いものに「学習」がある。学習とは、新しい情報や行動の仕方を記憶することだといえる。また、「失敗から学ぶ」というように。経験をもとにこれまでの行動の仕方や考え方を変化させることも、学習だといえる。記憶と同じく、学習によっても神経細胞のネットワークに変化がもたらされると考えられている。
記憶が脳にきざまれるまで
私たちの記憶は「大脳皮質」に保存されていると考えられている。
記憶をつくるときに重要な働きをするのが、脳の内部にある「海馬」という部位だ。視覚や嗅覚、触覚といった各感覚器官から送られてきた信号はまず、大脳辺縁系にある「嗅内皮質」に集められ、その後、隣の「海馬」に送られます。嗅内皮質には、「嗅」という文字がついていますが、嗅覚に限らず、あらゆる感覚情報がここに集められます。海馬ではこれらの信号を整理・統合し、大脳皮質にある「視覚野」や「嗅覚野」といった、それぞれ視覚や嗅覚の情報を処理する場所へと送り、記憶として格納します。
記憶の読み出しにも、一時的に(最大で数ヶ月程度)海馬は必要である。ただし、一定期間がすぎれば、海馬の助けがなくても大脳皮質にある記憶を読み出せるようになる。
なお、体の動かし方など、言葉にできない記憶は、一部、小脳に保存されていると考えられている。
記憶の種類(内容による分類)
意味記憶
言葉の意味や数式、年号など、いわゆる知識とよばれる記憶。
エピソード記憶
個人の経験や出来事にもとづく記憶。海馬がないと新しいエピソード記憶を覚えられない。
手続き記憶
特定のスポーツの技術や自転車の乗り方など、体の動かし方の記憶。この種類の記憶は、海馬がなくても覚えられるようだ。
※Newton 2010.3、2017.3より引用しています



| NEXT>>